歌手としての彼女の歩みもまた、独自の叙情性を宿していた。NAVレコードからリリースされたデビュー曲『ひとりごと』に続き、1976年に世に放たれた4枚目のシングル『青春の坂道』は、彼女の音楽的キャリアにおける決定的な転換点となる。
作詞・松本隆、作曲・森田公一という黄金コンビが手掛けたこの楽曲は、単なるアイドルソングの領域をはるかに超え、日本の歌謡曲史に輝く名作として定着した。岡田奈々の声は、決して技巧派の張り上げる歌唱ではない。だが、どこか語りかけるような素朴さと、青春の切なさをそのまま閉じ込めたような澄んだ響きがあった。哀愁漂うメロディラインに乗せて紡がれる歌声は、多くの若者の胸を強く締め付け、今聴いても胸に迫る普遍的なエモーションを放っている。