代理母出産をめぐる海外渡航の実態は、想像以上に過酷で不透明だ。依頼者が支払う金額の内訳は、代理母への報酬や医療費、滞在費、現地弁護士費用、エージェントへの仲介料と多岐にわたる。貯金をすべて取り崩し、親族からの借入れや不動産担保ローンに頼って資金を工面する中間層の夫婦も少なくない。
最大の落とし穴は、無事に出産を終えた後に待ち受ける法的手続きだ。日本の民法は「子を産んだ女性が母」という原則(最高裁判例)を頑なに維持している。現地で発行された出生証明書に日本人夫婦の名が記載されていても、日本の役所に持ち込めば不受理となるケースがほとんどだ。結果として、遺伝的につながりのある実の親でありながら、自分の子どもを「特別養子縁組」によって法律上の子として引き取らざるを得ない矛盾が生じる。
もし渡航先で子どもに深刻な先天性疾患が見つかったらどうするのか。依頼者が引き取りを拒否した場合、親権の所在はどこにあるのか。国境を越える生殖ビジネスの現場では、契約書の一行一行が家族の運命を左右する爆弾となり得る。