本作の最大の推進力となったのが、熱狂的なドラえもんファンとしても知られる直木賞作家・辻村深月氏によるオリジナル脚本です。辻村氏は執筆にあたり、藤子・F・不二雄ミュージアムに通い詰め、原作コミックス全編を幾度も読み返したと当時のインタビューで述懐しています。その情熱は、単なるファンムービーにとどまらない、極めて精巧なプロット構築へと結実しました。
作中におけるドラえもん 月面探査記 辻村深月 伏線の配置は、ミステリー作家としての技術が惜しみなく注ぎ込まれています。象徴的なのが、ひみつ道具「異説クラブメンバーズバッジ」の扱い方です。「天動説」や「月の裏にはウサギがいる」といった、現代科学では否定された異説を信じる者同士の世界を構築するこの道具が、単なる便利ツールではなく、物語全体の倫理的支柱として機能します。
冒頭で描かれる月面探査機「ナミダ」のニュース映像、のび太が学校で主張した「月のウサギ」に対するクラスメイトの嘲笑、そして転校生ルカの微細な仕草に至るまで、すべての描写が後半のクライマックスへ向けて完璧な計算のもとに配置されています。「想像力は未来であり、人への思いやりである」というドラえもんの台詞へ帰結していく構成の美しさは、大人世代の鑑賞に耐えうる知的な興奮をもたらしています。