映画『ブラック・レイン』の撮影が始まった当時、すでに彼の身体は病魔に侵されていた。診断結果は「膀胱がん」。激しい痛みに襲われ、血尿が止まらない日もあったという。しかし彼は、周囲にその事実を一切明かさなかった。告知を受ければ即座に降板させられ、命と引き換えに手に入れた絶好のハリウッドデビューの機会が潰えてしまうことを知っていたからだ。
病を隠したまま臨んだロケ現場は、過酷の一言に尽きた。血尿を鎮痛剤で抑え、青ざめた顔をメイクで覆いながら、彼はスクリーンの中で命を燃やした。共演者やスタッフの誰ひとりとして、彼が死の縁に立っていたことなど気づかなかった。それほどまでに彼の演技は圧倒的であり、一瞬の隙も見せなかったのである。痛みを堪える息遣いさえも、悪役「佐藤」の持つ冷酷な狂気へと昇華させていた。