ピータンを語る上で避けて通れないのが、インターネット上や昭和の巷間口伝で囁かれたネガティブな噂です。「発がん性物質があるのではないか」「昔、馬の尿で作られていると聞いた」といった不安を抱く読者も少なくありません。その真偽を食品衛生の観点から客観的に検証します。
まず、「馬の尿に漬けて作る」という俗説は100%完全なデマです。これはピータン特有のツンとしたアンモニア臭が馬の尿の匂いを連想させたこと、そして中国語の俗称で「馬尿蛋」と比喩的に呼ばれた時期があったことから生じた言語的誤解に過ぎません。馬の尿を製造工程で用いた歴史的・科学的事実は存在しません。
次に、より現実的な懸念とされた「鉛(重金属)の危険性」についてです。かつて中国の伝統的な製法の一部では、卵の気孔を急激に塞いでアルカリの過剰浸透による液化を防ぎ、ゼリー化を安定させる目的で「一酸化鉛(密陀僧)」を触媒として添加する悪質な、あるいは旧弊な手法が存在したのは事実です。1980〜1990年代には粗悪な輸入品から微量の鉛が検出され、問題視された事例が報道されました。
しかし、現在の流通品においてその心配は過去のものとなっています。中国政府は国家規格(GB2749)を制定し、重金属の残留基準を極めて厳格に設定。硫酸銅や鉄化合物、茶ポリフェノールなどを用いた「無鉛加工技術(無鉛ピータン)」の開発と義務化を強力に推進しました。さらに、日本国内に正規輸入されるピータンは、厚生労働省の検疫所における食品衛生法に基づいたモニタリング検査をパスしたものだけが店頭に並びます。現代の日本で一般に流通している正規のピータンを適量摂取する限り、重金属中毒などの健康リスクを懸念する合理的根拠はありません。