初見の視聴者が「同一人物ではないか」と錯覚する最大の要因は、声優・中尾隆聖氏の起用にある。『それいけ!アンパンマン』で数十年間にわたりばいきんまんを演じ続ける重鎮が、そのままのトーンと獰猛さを宿して『ワンパンマン』の第1話に降臨した衝撃は計り知れない。
これは偶然の産物ではない。原作者であるONE氏が初期ネームを描いた段階から、頭の中で響いていたのはまさに中尾氏の声だったという。アニメーション制作を手掛けたマッドハウスの制作陣も、この意図を寸分狂わず汲み取った。狂気とプライドが入り混じるあの声の抑揚。地球を汚染する人間を「病原菌」と見下し、自らを星の免疫機構たる「ワクチン」と豪語する演説は、ばいきんまんのコミカルな悪戯心を極限までシリアスに反転させた芸術的なパロディだった。
同一人物という設定上の繋がりは存在しない。しかし、演者の同一性によって視聴者の深層心理に生じる既視感とブラックユーモアこそが、この仕掛けの真髄だ。