黒光りする太い胴体、蛍光色のように目立つ斑点、そして尾部にそびえる鋭利なトゲ。禍々しい外見から「触れただけで激痛が走るのではないか」と恐れられがちですが、結論から言えばセスジスズメの幼虫に毒性は一切ありません。
チャドクガやイラガのように微細な毒針毛(どくしんもう)を皮膚に刺し込んで炎症を起こす毛虫とは根本的に構造が異なります。スズメガ科の幼虫全般において、人を害する毒液や毒針を持つ種は日本国内に存在しないことが農林水産関連の研究機関や昆虫学会の調査でも確認されています。
もっとも警戒される「お尻のトゲ」は、昆虫学上で尾角(びかく)と呼ばれる器官です。硬い針のように見えますが、実際には柔らかい肉質の突起に過ぎません。指で触れても刺さることはなく、注射針のように毒を注入する構造も備わっていません。歩行時や外敵が近づいた際にピコピコと前後に動かすため攻撃用器官と誤解されやすいものの、物理的な攻撃力はゼロです。
また、「噛む危険性」についても心配は不要です。植物の硬い葉を噛み切る強力な大顎(おおあご)を持っていますが、人間の皮膚を食い破るほどの力はなく、人間に対して意図的に噛みつく行動も見られません。万が一指を近づけて大顎が触れたとしても、わずかに挟まれる感覚がある程度で、出血や怪我につながるリスクは極めて低いです。
では、セスジスズメの幼虫を誤って触るとどうなるのか。直接皮膚がかぶれたり腫れたりすることはありません。ただし、身の危険を感じた幼虫は激しく頭部を左右に振って暴れ、口から緑色の消化液(胃内容物)やフンを吐き出す習性があります。この液自体に毒はないものの、独特の青臭い刺激臭があり、衣服や手につくと色素が沈着して落ちにくくなるため、素手で強く握るような接触は避けるのが賢明です。