「なぜ人気アーティストでも国立競技場でライブができないのか?」という疑問はファンの間で常に囁かれます。ドーム会場とは異なり、国立競技場での音楽イベント開催には構造面・環境面における3つの巨大な壁が存在します。
第1の壁は、「極めて厳しい騒音規制と近隣住環境への配慮」です。神宮外苑・千駄ヶ谷エリアは閑静な住宅街や慶應義塾大学病院をはじめとする医療施設に隣接しています。新国立競技場は開閉式屋根を持たないオープンスタジアムであるため、重低音や歓声が周囲一帯にダイレクトに拡散します。そのため、リハーサルの音量制限や「原則20時30分までの完全終演」という厳格なタイムリミットが課されています。
第2の壁は、「天然芝(ハイブリッド芝)の維持管理問題」です。国立競技場のピッチは日本代表戦や陸上競技大会を支える最高品質の天然芝が敷設されています。アリーナ席を設営する際は芝生保護プレートを敷き詰めますが、日光を遮断し重量負荷がかかるため、敷設できる期間は数日間に限定されます。設営から本番、撤収までを猛烈な過密スケジュールで完結させねばならず、舞台セットの構築に膨大なコストと制約が生じます。
第3の壁が、「スポーツ優先の施設運用と審査基準」です。日本スポーツ振興センター(JSC)が管理する国立競技場は、あくまで国の基幹スポーツ施設。Jリーグやラグビー日本代表戦、陸上選手権などの競技日程が最優先されます。興行としての実績、観客誘導や警備の緻密な計画、周辺環境対策をクリアしたごく一部の企画のみに使用許可が下りる仕組みとなっています。