辰巳菜穂の作品をひと目見て強く印象に残るのは、その際立った色彩感覚だ。特に、彼女の画面を支えるベースカラーとしての「淡いピンク」はトレードマークと言える。
空や影、地面の表情に絶妙なピンクのトーンを込める。これにより、描かれた風景は実在の場所でありながら、どこか夢想的なパラレルワールドのような浮遊感を獲得する。現実の風景を忠実に写し取るのではなく、彼女というフィルターを通して色の波長が再調整されているのだ。
さらに、鮮烈な「黄色」や「赤」がアクセントとして使われる。道路標識や消火栓、建物のひさしなどに施された原色は、淡い背景の中でパキッと立ち上がり、視線を強く引きつける。
建築的アプローチが支える影の表現
構造的な光と影の扱いも巧みだ。強い日差しが落とす斜めの黒い影。影自体を一つの独立した抽象的な「形」として捉え、キャンバス上に配置する。この鋭い造形感覚こそ、建築デザインを学んだ彼女ならではの強みだ。影が空間を引き締め、作品全体にポップでありながら締まった緊迫感を与える。