そもそも、なぜ相撲場でこれほどまでに鶏肉が重宝されるのか。その背景には、勝負の世界ならではの深いゲン担ぎと伝統的な食文化が根ざしている。
相撲において、土俵に手をつくことは「負け」を意味する。二本足で直立して歩く鳥は、前足を地面につかないことから、古くから力士たちにとって「決して手をつかない=土がつかない(負けない)」縁起の良い生き物として尊ばれてきた。ちゃんこ鍋の出汁や具材に鶏肉が多用されるのも全く同じ理由によるものだ。
公益財団法人日本相撲協会が主導する興行の歴史の中で、この縁起物は観客向けの弁当や土産物へと昇華していった。昭和の時代から受け継がれてきたこの食の慣習は、単なる軽食の枠を超え、大相撲という競技の精神性を舌で味わうための特別なアイコンとなっている。