広告代理店で辣腕を振るう営業部長・佐伯雅行が、49歳という若さで若年性アルツハイマー型認知症を宣告されるところから物語は始まります。順風満帆だったキャリア、一人娘の結婚、穏やかな老後という未来図が、音を立てて崩れ去っていく過程はあまりにもリアルで痛切です。
公開当時の特番インタビューや製作発表の場で、主演の渡辺謙は「人間が自分自身を失っていく恐怖と、それでも残る愛の形を妥協なく描きたかった」と語っています。白血病という死の淵から生還した彼自身の生命力が演技の端々に宿り、単なるお涙頂戴のメロドラマとは一線を画す凄みが作品全体を貫いています。
妻・枝実子を演じた樋口可南子の静謐でありながら強靭な佇まいも、多くの観客の涙を誘いました。崩壊していく日常を受け止め、夫を支え続ける覚悟を決めた彼女の表情の変化は、20年近く経過した現在の鑑賞にも一切の色褪せを感じさせません。