物語の起点となるのは、高校生・小日向あゆみが体験する理不尽極まりない悪夢です。大好きな幼馴染である水本公史郎(しろちゃん)から告白され、幸福の絶頂にいた初デートの当日、あゆみのスマートフォンにクラスメイトの海根然子から着信が入ります。「今から私が飛び降りるところを見ていて」と告げられたあゆみは、眼の前で然子が校舎の屋上から落下する瞬間を目撃し、そのショックで意識を失ってしまいます。
病院のベッドで目を覚ましたあゆみが鏡を見て目にしたのは、美しく愛らしかった自分自身の顔ではなく、太っていて醜いと蔑まれてきた然子の姿でした。一方、あゆみの身体を手に入れた然子は、かつてのあゆみの立場をそっくり奪い取り、何食わぬ顔であゆみの家族や恋人であるしろちゃんに近づいていきます。姿形が変わっただけで、家族にも親友にも「自分があゆみだ」と信じてもらえない極限の孤立。外見という記号が剥ぎ取られた瞬間に訪れるアイデンティティの崩壊が、容赦なく描かれます。
そこで明かされる宇宙を駆けるよだか 入れ替わりの真相とは、自然界の特定周期にのみ発生する「赤月(赤池)の夜」の奇現象でした。入れ替わりの絶対条件は、赤月が昇る空の下で、入れ替わりたい対象者に見つめられながら飛び降り自殺を図り、強い死のイメージを意識に刻み込むこと。然子はこの超常法則を周到に調べ上げ、自分からすべてを奪った(と逆恨みしていた)あゆみを罠に嵌めたのでした。この理不尽な事態から、あゆみの過酷な身体奪還劇が幕を開けます。