古田足日が目指したのは、大人が押し付ける「理想の良い子」の描画ではない。子供自身が自らの足で立ち、恐怖を克服していくプロセスをそのまま描き出すことだった。日本の児童文学界において、彼は常に実体のある子供の日常と内面社会に光をあて続けた異端であり、先覚者でもあった。
「押し入れ」という閉ざされた極小の空間が、果てしない夜のハイウェイや不気味な地下世界へと急拡大する演出は、児童心理の深層に眠る原初的な恐怖と興奮を見事に捉えている。危険を伴う冒険を通してのみ得られる自己統合の感覚。それこそが、作品の根底に流れる真のメッセージにほかならない。