物語のクライマックスにおいて、観客の感情を最も揺さぶるのは、18歳の生霊である「しんの」と、現実の厳しさに摩耗した31歳のギタリスト「金室慎之介」の対話と決着です。
高校卒業後にプロミュージシャンを目指して上京した慎之介ですが、現実は厳しく、大物演歌歌手・新渡戸団吉のバックバンドとして地元・秩父へ凱旋することになります。かつて抱いていた純粋な情熱を失い、斜に構えた態度をとる31歳の慎之介。一方で、あかねへの強い未練と音楽への衝動を抱えたまま、13年前の姿でお堂に現れたのが「しんの」でした。
作中における伏線として極めて重要なのが、しんのがお堂の敷地から一歩も外に出られないという制約です。この現象の正体は、慎之介自身が「あかねを置いて上京した罪悪感」と「かつての眩しい夢」をお堂に置き去りにして封じ込めていたことの象徴でした。しんのは幽霊ではなく、慎之介の生き霊(強い思念の結晶)だったのです。
土砂崩れの危険が迫る旧秩父橋付近で姉・あかねが孤立した際、しんのは自らの足でお堂の結界を突き破り、あおいを連れて空を飛びます。この超現実的な飛翔シーンは、理屈を超えた「あかねを救いたい」という純粋な想いが過去の呪縛を打ち破った瞬間を示しています。
現場に駆けつけた31歳の慎之介は、18歳の自分(しんの)と直接対峙します。「あかねを幸せにするのは今の俺じゃない、お前だ」と託すしんのに対し、慎之介は自らの弱さを受け入れ、再びあかねの手を取る覚悟を決めます。過去の残滓であるしんのは、現在の慎之介があかねへの愛と音楽への誇りを取り戻したことを見届け、満足げな笑顔を残して光の中へと消滅しました。
あおいにとっては、しんのへの届かない初恋の終わりであり、同時に姉・あかねが払ってきた犠牲の正体に気付き、自立へと踏み出す決定的なイニシエーション(通過儀礼)となったのです。