スマホやSNSで瞬時にやり取りが完結する現代において、手紙を書き、文字を紡ぐ時間がいかに贅沢であるかを彼女の作品は教えてくれます。相手の姿を思い浮かべながら便箋を選び、万年筆や毛筆で一字一字丁寧に想いを乗せる。その一連の所作には、現代社会が失いつつある人間的な温もりが満ちています。
古い街並みと自然が共存する鎌倉の四季折々の風景も、物語に深い情緒を添えています。近所の人々とのさりげない挨拶、季節の移ろいを感じるお菓子、古い道具を慈しむ暮らし。ささやかだけれど愛おしい日常の断片が、傷ついた主人公の心を少しずつ解きほぐしていくプロセスは、読んでいる私たち自身の心をも優しく包み込みます。