タキシードの装いを完成させるためには、固有のアクセサリーが持つ「役割と文脈」を正しく理解していなければなりません。どれか一つでも欠けると、全体のバランスが崩れてしまいます。
首元を飾る「蝶ネクタイ(ボウタイ)」は、黒の拝絹生地と揃えたブラックシルクが基本です。手結び(セルフタイ)が最も格式高いとされますが、現在は美しく成型されたピアネス・タイも広く普及しています。白の蝶ネクタイは燕尾服専用であるため、タキシードに合わせるのはルール違反となります。
お腹周りに巻く「カマーバンド」は、かつて英国領インドで暑さに耐えかねた将校たちがベストの代わりに巻いたサッシュ(帯)が起源です。着用する際は「ヒダ(プリーツ)を上向き」にするのが絶対の鉄則です。この上向きのヒダは、かつてオペラ座の観劇チケットや小銭を挟むポケットとして使われていた名残であり、下向きに巻いてしまうと「無知の証明」となってしまいます。
足元を飾る「エナメル靴(オペラパンプスまたは内羽根式プレーントゥ)」にも、紳士の心遣いが込められています。通常の革靴は靴クリームで磨き上げられているため、夜の舞踏会でワルツを踊る際、貴婦人のドレスの裾を靴墨で汚してしまう恐れがありました。表面を樹脂加工したパテントレザー(エナメル)は、靴墨を使わずに強い輝きを放ち、女性のドレスを汚さないための「究極のレディファースト靴」として定着した歴史を持ちます。