当時、関西方面に広がる西国三十三所を巡礼することは、一般の庶民にとって人生の一大事業であり、莫大な時間と費用を要した。さざえ堂はその問題を見事に解決する「イノベーション」だったのだ。
かつてはこの回廊の側壁に三十三体の観音像が安置されており、参拝者はこの堂を一度上って降りるだけで、すべての札所を巡礼したのと同じ功徳が得られるとされた。過酷な旅に出られないお年寄りや庶民のために開かれた、いわば江戸時代のバーチャル・トリップ空間。人々の願いに応えようとした慈悲の心が、この比類なきデザインを生み出す原動力となった。