桑木知二の学問的背景を語る上で見逃せないのが、実兄である桑木厳翼(くわき・げんよく)との関係です。厳翼はカント哲学の研究で知られる日本近代哲学の最高峰の一人であり、京都帝国大学や東京帝国大学の教授を務めた当代一流の哲学者でした。
桑木家は旧加賀藩士の家系であり、知性重視の厳格な環境で育ちました。兄・厳翼が西洋哲学の真髄を追究する一方で、弟・知二は理論物理学という最先端自然科学へと進みました。この兄弟の間で交わされた思想的対話が、知二の「物理学を歴史的・哲学的に省察する」という独自のアプローチを強固にしたことは論を俟ちません。
当時の知性派サロンや学術界において、桑木兄弟の存在は「哲学と科学の最高峰の結合」として称賛を集めました。専門領域に閉じこもりがちだった明治・大正のアカデミズムにおいて、家庭環境から培われた学際的な視野が、知二を日本科学史学会の設立へと駆り立てる原動力となったのです。