近衛十四郎の太刀筋を語る上で欠かせないのが、特注の超重量級ジュラルミン刀や真剣に近い重量を持つ小道具を、羽のように軽々と扱っていた事実だ。普通の役者なら数回振るだけで腕が痺れる刀を、彼は寸止め1ミリの狂いもなく高速で振り抜く。刃先が空を裂く風切り音は、後から編集で足した効果音ではなく撮影現場の生音だったと当時のスタッフは証言する。
この超人的な身体操作と職人芸とも言える間合いの美学は、実の息子である松方弘樹と目黒祐樹へ鮮烈に受け継がれた。長男・松方弘樹は父から直接「刀の重みを見せるな、背中で切れ」と叩き込まれ、後年の大河ドラマや任侠映画で見せた圧倒的な太刀捌きの土台を築いた。幼少期の松方が父の立ち回りを食い入るように見つめ、重心の落とし方をノートに書き留めていた稽古場の逸話は、映画ファンの間で伝説となっている。次男の目黒祐樹もまた、父の繊細かつ鋭利な視線劇を自らの演技論へと昇華させた。親子二代にわたる剣技の連鎖は、日本のアクション史における至高の奇跡といっていい。