SNSやネット掲示板上では、「潰したニキビにオロナインを厚塗りして絆創膏を貼れば一晩で治る」「キズパワーパッドを貼って密閉するのが最速」という俗説が長年飛び交っています。臨床皮膚科の見地から検証すると、これらには深刻な落とし穴が存在します。
まず、ニキビ潰した後オロナイン(オロナインH軟膏)を使用する行為についてです。主成分であるクロルヘキシジングルコン酸塩液は殺菌消毒作用を有しますが、基剤にはワセリンやオリブ油といった多量の油脂成分が含まれています。ニキビの主因であるアクネ菌(Cutibacterium acnes)は、酸素を嫌い皮脂などの油分を栄養源として増殖する「嫌気性菌」です。創部にこってりと油性軟膏を塗り重ねる行為は、皮脂腺の出口を物理的に塞ぎ、残存したアクネ菌に格好の培地を提供する結果になりかねません。消毒のつもりが逆に深部の炎症を助長させ、腫れを悪化させるリスクを孕んでいます。
それ以上に厳重な警戒が必要なのが、ニキビ潰した後キズパワーパッドに代表されるハイドロコロイド素材の家庭用創傷被覆材の流用です。
すり傷ややけどに対して湿潤療法(モイストヒーリング)は極めて優れた治癒効果を発揮しますが、それは「無菌、あるいは感染リスクが極めて低い擦過傷」に限定された原則です。製品の公式添付文書にも明記されている通り、「感染を起こしている傷、感染の恐れがある傷、にきび」への使用は禁忌とされています。ニキビを潰した傷口の深部には、アクネ菌や黄色ブドウ球菌が確実に残存しています。これをハイドロコロイドで完全に密封すると、嫌気性環境が完成し、閉鎖腔の中で病原菌が爆発的に増殖します。翌朝パッドを剥がしたときには、激しい発赤と腫脹、大量の排膿を伴う蜂窩織炎一歩手前の重篤な感染症に発展していたというトラブルが皮膚科の現場では後を絶ちません。自己判断によるニキビ創部の密閉処置は禁忌と認識すべきです。