戦後、高度経済成長期を迎えると、マッチ箱の主役は産業輸出から都市の日常カルチャーへとシフトした。その象徴が「喫茶店マッチ」と「バー・キャバレーマッチ」である。
昭和30年代から50年代にかけて、街角の喫茶店や洋食店、酒場は競ってオリジナルのマッチ箱を制作した。常連客は会計時にレジ脇に置かれたマッチ箱をポケットに忍ばせ、自慢のコレクションとした。店側にとっても、顧客の手元に自店の名前と電話番号を残す最高峰の販促ツールだった。
この時代、マッチ箱の意匠は表現の最高潮に達する。抽象画のようなモダンアート風デザイン、アンニュイな女性のイラスト、洒脱なキャッチコピー、シュールな4コマ漫画。有名な画家やイラストレーターが匿名で手掛けた名作も少なくない。マッチ箱博物館の展示ケースに並ぶ昭和のマッチ群は、当時の若者文化や都市の残り香を今に伝える貴重なタイムカプセルなのだ。