香港ディズニーランド(HKDL)を訪れたゲストが直面する最大の驚きの一つが、クラシックアトラクションの代名詞であるカリブの海賊が存在しないという事実です。開業から20年以上が経過した現在でも新設されていない背景には、主に3つの構造的な要因が存在します。
第一の理由は、2005年の開園当初における敷地規模と初期投資の最適化です。香港ディズニーランドはランタオ島の埋立地に建設され、開業時は「世界で最もコンパクトなディズニーランド」としてスタートしました。限られた区画内に必要不可欠な要素を凝縮させる際、水路を大規模に張り巡らせるボートライドの導入は見送られ、すでにアドベンチャーランドの核として設計されていた「ジャングル・リバー・クルーズ」に水上体験の役割が集約されました。
第二の理由は、アジア近隣パークとの競合回避(カニバリゼーション防止)です。ウォルト・ディズニー・イマジニアリング(WDI)の戦略資料や開発史を紐解くと、2010年代初頭の拡張計画段階で、すでに2016年開業を控えていた上海ディズニーリゾートへの「パイレーツ・オブ・カリビアン」超大型投資が決定していました。地理的に近い香港と上海で同一テーマの大型ライドを競合させるのではなく、香港には全く新しい独自IPやオリジナルストーリーを投入する方針が採られたのです。
第三の理由は、香港独自のアトラクション開発へのリソース集中です。香港ディズニーランドは開園後の拡張プロジェクトにおいて、世界のどのパークにも存在しない「ミスティック・ポイント」や「グリズリー・ガルチ」を新設しました。既存のカリブの海賊をそのまま複製するのではなく、独自の技術とストーリーテリングを誇る「ミスティック・マナー」や「ビッグ・グリズリー・マウンテン」の開発に資金と土地を優先配分した結果といえます。