坂口健太郎が演じた星野武蔵は、植物学に人生を捧げる風変わりな帝大生だった。落ち葉や雑草に目を輝かせ、人とのコミュニケーションはどこかぎこちない。だが、その愚直なまでの誠実さが、昭和初期の激動を生きる登場人物たちのなかで異彩を放っていた。
セリフの抑揚や視線の動かし方ひとつに、飾らない素朴さが宿る。大きな身振り手振りに頼るのではなく、伏せた睫毛の影や、ふとした瞬間にこぼれる柔らかな微笑みで感情を語る。その抑制された演技アプローチこそが、星野武蔵という青年に血肉を通わせた最大の要因だった。
視聴者は毎朝、彼の不器用な一歩一歩に息を呑み、応援せずにはいられなくなった。派手な劇的展開ではなく、日常の些細なしぐさで観る者を惹きつける。坂口が持ち込んだその独特の空気感が、朝ドラのスクリーンに心地よい風を吹き込んだのは紛れもない事実である。