なぜ人は、辛い時や腹が立つ時ですら笑ってしまうのか。この謎をとく鍵は、歴史的な心理学の知見にも隠されている。精神分析の創始者ジークムント・フロイトは、人が不安や恐怖から心を守るために無意識に発動させる「防衛本能」を提唱した。自分の本来の感情とは真逆の態度をとる「反動形成」は、まさに嫌悪感や悲しみを笑顔で覆い隠そうとする心のメカニズムそのものである。
一方で、アドラー心理学で知られるアルフレッド・アドラーは、人間の行動の根底には「他者との肯定的なつながり」や「所属感」を求める強い欲望があると説いた。周囲からの拒絶を極度に恐れるあまり、争いを避ける唯一の手段として笑顔を選び続ける人も多い。心理学・行動科学の現代的なアプローチにおいても、過度な微笑みは単なる性格ではなく、厳しい環境を生き抜くために獲得した「対人戦略」として再評価されている。