本作を語る上で避けて通れないのが、奇皇后の実在性とドラマにおける大胆な脚色です。実在の奇皇后(完者忽都皇后)は14世紀、高麗から元への貢女として送られた下級貴族の娘でした。
宮中でお茶を入れる宮女として仕える中でトゴン・テムル(順帝)の寵愛を受け、第2皇后、さらには正宮皇后へと異例の出世を遂げた点まではドラマと同様です。しかし、実際の歴史書『高麗史』や『元史』に記された姿は、ドラマで描かれた「祖国を思う愛国的な英雄」とは大きく異なります。
史実における奇皇后一族(奇氏一門)は、元の強大な軍事力を背景に高麗本国で甚大な専横と汚職を極めました。これに憤った高麗の第31代恭愍王(コンミンワン)によって奇氏一族は粛清され、激怒した奇皇后は元軍を派遣して高麗を攻めさせようと画策(結果は高麗軍の撃退により失敗)しています。
このため、韓国の放送開始前には「歴史を美化・歪曲しすぎている」との激しい論争が巻き起こりました。制作陣は主人公の表記を架空の人物設定に近づけ、オープニングで「本ドラマは実際の歴史をモチーフにしたフィクションである」と明記することで放送を貫徹。結果として、エンターテインメントとしての完成度を極限まで高めた傑作へと昇華させました。