銀座の高級料亭・日本料理店がひしめく中で、治作の名を一躍特別なものにしているのが、創業以来90年以上にわたり受け継がれてきた「名物水たき」です。一般的な鶏鍋とは一線を画し、その調理工程には徹底した職人のこだわりが宿っています。
厨房関係者の証言によると、治作の水たきに使用される原材料は、厳選された銘柄鶏(徳島県産の阿波尾鶏など)、水、そして少量の塩のみです。野菜や余計な調味料を一切加えずに、專任の職人である「水たき番」が火加減を秒単位で見極めながら、大鍋で8時間以上炊き込みます。骨の髄から抽出されたコラーゲンと旨味が乳化し、出来上がるスープは黄金色を帯びた純白の輝きを放ちます。
客席に運ばれると、まずは仲居が小さな湯呑みに注いだ熱々のスープを一口味わうのが治作流の作法です。鶏特有の臭みは皆無で、濃厚でありながら後味は驚くほど軽やか。続いて、ほろほろと崩れるほど柔らかく煮込まれた鶏肉を、特製の秘伝ポン酢とあさつき、もみじおろしで食します。この「スープの一杯目から始まる食の演出」こそが、多くの美食家を虜にしてきた最大の理由です。