日本の伝統文化において、夜が明けても空に残っている月のことを「有明の月(ありあけのつき)」と呼びます。「有明」とは文字通り「夜明け、夜が明ける頃」を意味する古語であり、陰暦十六日以降の、夜遅くに昇って夜明けの空に残る月全般を指す言葉です。
平安時代の貴族や歌人たちは、闇夜を照らす満月だけでなく、朝の光に溶け入りそうになりながら淡く光る有明の月に深い情緒と無常観を見出しました。『百人一首』に収められた壬生忠岑の名歌は、その代表例として知られています。
「有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし」
(夜明けの空に冷ややかに残る有明の月のように、素っ気ない態度で見送られたあの別れの朝以来、夜明けほどつらく切ないものはありません)
冷淡な恋人の態度を、朝の青空に白く浮かぶ有明の月に重ね合わせた見事な比喩です。また、俳句の世界において「有明の月」は秋の季語として親しまれています。空気が澄み渡り、空の透明度が一層高まる秋の早朝に見る月は、古来より人々の心を強く揺さぶる特別な景観でした。