ふたりの関係を紐解く上で欠かせないのが、軍儀の戦術「孤孤狸固(ココリコ)」である。コムギがかつて生み出し、自ら破ったとされるこの手筋は、ふたりの運命と魂の交錯を象徴する極めて重要な伏線として機能している。
対局のなかでメルエムが孤孤狸固を打った際、コムギはそれを瞬時に見破り、かつて自分が考案して捨てた死に筋であることを告げる。一見すると王の挫折を描いたシーンだが、ここには深い隠喩が存在する。孤孤狸固は「王」を孤立させて討ち取る一手でありながら、打った側もまた逃げ場を失う両刃の剣。メルエムが人間との戦いで直面した「強者の孤独」と「種の限界」、そしてコムギとともに毒に倒れる運命そのものを予見していたかのような構図だ。
一度は死んだ技が、王という対局者を得たことで再び命を吹き込まれ、新たな詰みへと至る。盤上の駒の動きひとつに、ふたりの生き様と最期の選択が完璧に投影されていた。