この弔辞を不朽の名文たらしめた最大のハイライトが、終盤に引用された一首の短歌です。菅氏は静かにこう語りかけました。
「かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ」
この歌は、明治から大正にかけて日本の近代化と政局を牽引した山県有朋が、盟友であり後継者でもあった桂太郎に先立たれた際に詠んだ哀悼歌です。「すべてを腹を割って語り合い、国家のために全力を尽くし合ってきた無二の友が、自分より先に逝ってしまった。残された私は、これから先の世をどう生きていけばよいのだろうか」という、底知れぬ喪失感と孤独を歌い上げています。
山県と桂は、時に激しく意見を戦わせながらも、互いを誰よりも必要不可欠な存在として認め合っていました。その歴史的関係性は、まさに外交と大局を率いた安倍氏と、内政と危機管理を鉄壁の布陣で守り抜いた菅氏の「安倍・菅コンビ」に重なります。これ以上ない痛切な心情の投影として、多くの人々の心に突き刺さりました。