展示室に足を踏み入れると、まず圧倒されるのが膨大な制作資料の数々です。本作は、上野動物園にジャイアントパンダの「カンカン・ランラン」が来日し、日本中が空前のパンダブームに沸いた1972年に誕生しました。しかし、単なるブーム便乗企画に終わらず、半世紀を超えて愛される普遍的傑作となった理由は、若き日の高畑勲と宮崎駿が注ぎ込んだ圧倒的なクリエイティビティにあります。
会場内では、宮崎駿が手掛けた生き生きとしたイメージボードや画面設定、レイアウトの直筆資料、高畑勲の緻密な演出メモ、さらには作画監督の小田部羊一による温かみあふれるキャラクター設定画が惜しみなく公開されています。少女ミミ子と、父代わりのパパンダ、子どものパンちゃん、そして続編『雨ふりサーカスの巻』で加わるトラちゃんが織りなす擬似家族の温もりは、卓越したデッサン力と生活感への徹底的な観察眼によって裏打ちされていることが資料から如実に伝わってきます。
多くの来場者が足を止めるのが、巨大なパパンダのふかふかのお腹を再現した立体フォトスポットや、ミミ子の自宅の食卓を忠実に再現した実物大ジオラマです。子どもたちが歓声を上げる一方で、アニメーション制作の現場を志す若者や研究者たちが熱心に原画の筆致をメモする姿が見られ、多層的な魅力が空間全体を満たしています。