医療機関の問診票や臨床記録を紐解くと、潰瘍などの目に見える異常がないにもかかわらず、深刻な痛みを訴え続ける患者が一定数存在します。その代表例が「歯牙接触による慢性外傷」と「舌痛症」です。
実際の臨床現場では、「右下の奥歯の詰め物が欠けてから、舌の同じ場所がずっと痛む」「寝ている間の歯ぎしりや食いしばりで、朝起きると舌の縁に歯型(舌圧痕)がくっきりついて痛い」という相談が後を絶ちません。歯が舌の側面に当たる痛みは、放置すると粘膜の異形成を招く要因になり得ます。舌が常に歯列と擦れ合うことで慢性的な炎症が持続し、組織の修復が追いつかなくなるためです。
一方で、外見上の異常が一切見られないにもかかわらず、舌の表面が火傷をしたようにヒリつくケースでは、舌痛症の症状と特徴が強く疑われます。厚生労働省の関連研究や歯科心身医学の臨床データによると、舌痛症は40代から60代の女性に多く見られ、以下の特徴を持ちます。
- 食事中や何かに熱中している時間は痛みが和らぎ、リラックス時や夕方以降に痛みが強くなる。
- ピリピリ、チクチク、ジンジンとした異常感覚が数ヶ月単位で持続する。
- 味覚障害や口の渇き(ドライマウス)を併発しやすい。
舌痛症の根本的な要因には、末梢神経の知覚過敏、自律神経の乱れ、更年期に伴うホルモンバランスの変動、心理的ストレスが複雑に絡み合っています。「どこに行っても異常なしと言われ、精神的な問題として片付けられてしまった」と孤立感を深める患者も少なくありませんが、現在は神経障害性疼痛に準じた薬物療法や漢方治療により、症状のコントロールが十分に可能となっています。