前田敦子の女優人生における最大のターニングポイントとして映画ファンや批評家が挙げるのが、2015年1月公開の群像劇映画『さよなら歌舞伎町』です。彼女が演じたのは、ミュージシャン志望でありながら現実の壁にぶつかり、ラブホテルの清掃員として働く恋人(染谷将太)との関係に葛藤する女性・飯田美優でした。
作中で描かれたプロデューサーからの誘いを受ける場面や、恋人との間で繰り広げられる赤裸々なベッドシーンは、従来の清純派アイドルのイメージを粉々に打ち砕くものでした。派手な肌の露出そのものよりも、「生々しい生活感と生身の女性の息遣い」をそのままカメラの前に晒す体当たり演技は、国内外の映画祭で極めて高い評価を獲得しました。
当時のインタビューにおいて前田は、「廣木組の現場では余計な計算を捨て、ただその人物として息をすることを求められた。アイドルだった過去を守ろうとする意識は最初から持っていなかった」と語っています。この作品で見せた剥き出しの感情表現こそが、彼女を「元アイドル」から「映画女優」へと決定的に羽ばたかせた跳躍台となりました。