幼少期から言い伝えられてきた「へそのゴマを取るとお腹が痛くなる」という話は、単なる迷信や子どもを窘めるための脅し文句ではありません。人体の精緻な解剖学的構造に根ざした、極めて合理的な警告です。
おへそ(臍)は、母親の胎内にいた頃に酸素や栄養を受け取っていた「臍帯(へその緒)」が切り離された痕跡です。成人のお腹の皮膚には皮下脂肪や分厚い腹筋群が存在し、内臓を外部の衝撃から保護しています。ところが、おへその中心部だけは皮下脂肪や筋肉が一切存在せず、薄い皮膚のすぐ真裏に「腹膜(ふくまく)」が直結しています。
腹膜には、痛覚や圧覚に極めて敏感な「体性神経」が網の目のように張り巡らされています。指先や爪、先端の硬い綿棒などでへその底を強く押したり擦ったりすると、数ミリにも満たない極薄の皮膚を通して、内臓を包む腹膜にダイレクトに刺激が伝達されます。その結果、腹部全体を締め付けるような鋭い鈍痛や差し込むような激痛が生じるのが、へそのゴマを取るとお腹が痛くなる真相です。
腹膜への刺激は迷走神経反射を誘発することもあり、過度な刺激によって吐き気や冷や汗、血圧低下によるふらつきを引き起こすケースも報告されています。「少し触っただけなのに下腹部が重だるく痛む」という感覚は、生体が発している危険信号に他なりません。