『永遠の0』を読んだ際、「フカとはどのような魚なのか」「一般的なサメと何が違うのか」と疑問を持った方も少なくないはずです。生物学的な分類において、フカとサメはまったく同じ「軟骨魚類板鰓(ばんさい)類」に属しており、種としての明確な境界線があるわけではありません。
日本語の語源や地域文化において、両者には明確な使い分けの歴史が存在します。関東以北の東日本では一般的に「サメ」と呼ばれるのに対し、関西や西日本、瀬戸内沿岸では昔から大型のサメ全般を「フカ」と呼び習わしてきました。また、山陰地方の一部ではサメを「ワニ」と呼ぶなど、海洋国家である日本各地で独自の呼称が発達してきた背景があります。
なかでも旧日本海軍の将兵や漁船員たちの間では、「小型でおとなしい種類をサメ、人間を襲うような大型でどう猛な種類をフカ」と呼び分ける慣習が定着していました。作中で宮部久蔵や戦友たちが口にする「フカ」という言葉には、単なる魚の名前を超えた、海の男たちが肌身で感じていた本能的な畏怖が込められています。