トムヤンクン(ต้มยำกุ้ง / Tom Yam Kung)は、タイ中部を発祥とする同国屈指の伝統的スープ料理です。名前に込められた構造は極めて論理的で、タイ語の単語を3つ分解することでその本質が見えてきます。
「トム(ต้ม)」は煮る、「ヤム(ยำ)」は和える・混ぜ合わせる、「クン(กุ้ง)」はエビを指します。直訳すれば「エビを入れた酸味と辛味の煮込み和えスープ」となります。主役となる具材を変えることで料理名も変化し、鶏肉を使えば「トムヤムガイ(ไก่)」、魚介類全般なら「トムヤムタレー(ทะเล)」、魚なら「トムヤムプラー(ปลา)」と呼ばれます。
日本国内でよく議論される「トムヤムクンとの違い」については、単なる日本語転写の差異に過ぎません。タイ語の末尾子音「-ng(ง)」は、日本語の「案内(あんない)」の「ん」のように鼻から抜ける音であるため、カタカナで表記する際に「トムヤムクン」と書くか「トムヤンクン」と書くかの揺らぎが生じたものです。現地の料理としては全く同じものを指しています。
また、フランスのブイヤベース、中国のフカヒレスープ(またはロシアのボルシチ)と並んで世界三大スープの一つに数えられます。この呼称は日本のメディアや調理教育の現場から広まった側面が強いものの、辛味、酸味、塩味、甘味、そして複雑なハーブのアロマが一杯の器の中で完璧に調和する構成美は、世界各地のトップシェフたちからも唯一無二のスープカルチャーとして絶賛されています。タイ政府・文化省がユネスコ(UNESCO)無形文化遺産への登録を積極的に働きかけている事実も、その国際的ステータスを物語っています。