サクサクと音を立てて崩れた瞬間、口内に広がるのは驚くほど芳醇で、それでいて後味がどこまでも爽やかな発酵バターの香り。同店の代名詞とも言えるミルフィーユの生地は、極限まで薄く伸ばされた数百もの層から構成されている。湿度の高い日本において、この完璧なパリッとした食感を保持し続けるのは至難の業だ。
「従来の製法では、この儚い口溶けは再現できない」とシェフは語る。温度と湿度をコンマ1度単位で管理する専用のパイ工房で、毎日職人が手作業で折り込む。計算し尽くされた焼成プロセスによって、香ばしさと食感の黄金比が生まれるのだ。