スーパーマーケットや精肉店でパックを手に取った瞬間から、調理の勝負は始まっている。新鮮で旨味の乗ったロースを選ぶポイントは、赤身の鮮やかな小豆色と、脂肪部分の乳白色のコントラストにある。ドリップ(肉汁)がパックの底に溜まっているものは旨味成分が流出している証拠であり、避けるのが賢明だ。さらに、脂と赤身の境目がくっきりと明瞭で、表面に適度なハリがある個体を選ぶと失敗がない。
調理における最大の過ちは、冷蔵庫から出したばかりの冷たい肉をそのままフライパンに投入することだ。中心が冷えたまま加熱すると、表面だけが焦げて内部に火が通らず、肉汁が外へ逃げ出してしまう。調理の30分前には室温に戻し、塩を振るのは焼く直前のタイミングに限定する。塩分によって浸透圧が生じ、肉内部の水分が浮き出るのを防ぐためだ。
焼き上げたら、フライパンから取り出してアルミホイルで優しく包み、加熱時間と同等の時間だけ休ませる。このレスト(休ませ)工程によって、高熱で暴れていた肉汁が中心から全体へと均一に行き渡り、ナイフを入れた瞬間にジューシーな旨味が口いっぱいに広がる完璧な仕上がりが完成する。