『大岡越前』のドラマ性を唯一無二のものにした最大の要因は、大岡忠相と町医師・榊原伊織との関係性です。権力の中枢にあって法を司る奉行と、貧しい長屋の民に寄り添い命を救う町医者。立場は異なりながらも、民を思う心で通じ合う2人の掛け合いは、作品の精神的支柱でした。
榊原伊織を演じたのは、希代の美男子スターとして絶大な人気を誇った竹脇無我です。加藤剛と竹脇無我は、役の上だけでなくプライベートでも生涯の親友として知られていました。二重橋のたもとで語り合うシーンに代表される2人の静謐な演技は、虚飾のない真の信頼関係があったからこそ成立したものです。
後年の特番や手記で明かされたところによると、竹脇が無類のプレッシャーや私生活の苦難から重度のうつ病を患った際、加藤剛は余計な詮索を一切せず、ただ寄り添い続けました。電話口で言葉に詰まる竹脇に対し、加藤は受話器越しに長い沈黙を共有し、「無我、生きているだけでいいんだよ」と静かに語りかけたといいます。病を克服した竹脇が再び現場に復帰した際、2人が交わした固い握手は、昭和の銀幕を駆け抜けた男たちの至高の友情物語として制作現場のスタッフの間でも伝説となっています。