一方で、やらせ疑惑が完全には消え去らなかった背景には、深刻な不況に喘いでいた出版業界の思惑が透けて見えた点も挙げられる。主催である公益財団法人日本文学振興会や、受賞作を掲載する文藝春秋にとって、『火花』の爆発的なヒットが喉から手が出るほど欲しい「恵みの雨」であったことは間違いない。
受賞作が掲載された『文藝春秋』特別号は増刷を重ね、累計発行部数は250万部を突破する歴史的記録となった。普段は純文学に触れない層までが書店に押し寄せたこの現象を、一部の批評家は「商業主義への過剰な傾斜」と批判した。このビジネス面での大成功が、結果として「出版界が売り上げのために選考をコントロールしたのではないか」という穿った見方を補強してしまった側面は否定できない。