日本国内の多くの遺跡では、酸性土壌の影響によって木質の遺物が分解され失われてしまうケースが珍しくない。しかし、西沼田の湿地環境は、有機物を文字通り時空の凍結状態へと追いやった。発掘された木製農具の柄や未加工の木材には、当時の加工技術である刃物の削り跡がはっきりと残されている。
高精度の年代測定と樹種同定を行った結果、当時の人々が集落周辺の森林資源を極めて計画的に管理し、用途に応じて最適な樹種を選び分けていた事実が裏付けられた。過剰な伐採を避け、木々の再生サイクルに合わせた利用を続けていた形跡は、環境との共生を理念ではなく日常の実践として行っていた証拠に他ならない。