物語のクライマックス、境界となる草原で交わされる別れのシーンは、映画史に残る名場面として語り継がれています。「どこかでまた会える?」「きっと」「私の本当の名は、ニギハヤミコハクヌシだ」と交わされる言葉は、単なる恋愛感情を超越した、深い魂の結びつきを感じさせます。
ハクが千尋に対して強く命じる「トンネルを出るまで決して振り向いてはいけない」という言葉には、世界各地の神話(日本のイザナギ・イザナミの黄泉の国訪問や、ギリシャ神話のオルフェウスの物語)に見られる「禁忌(タブー)」の構造が組み込まれています。異界と現世の境界を越える際、過去への未練や振り返りは、人間を日常から引き戻せなくしてしまう危険を孕んでいるからです。
二人が再び現実世界で肉体を持って出会うことは、コハク川が消滅している現実を鑑みれば極めて困難かもしれません。しかし、千尋の髪留めがキラリと光り、彼女が「経験したことを決して忘れない」状態で生きていくように、ハクの存在は千尋の心の中で永遠に生き続け、彼女の人生を内側から支え続ける力となっています。