北京オリンピック開会式における最大のクライマックスであり、最も議論と称賛を巻き起こしたのが「雪の結晶」と「聖火点火」の演出です。ここには、従来の五輪が提示してきた価値観を再定義する深い意図が込められていました。
各選手団を先導したプラカードは、中国結びの技法を取り入れた繊細な「雪の結晶」のデザイン。入場行進を終えた後、91の国と地域のプラカードが一堂に集まり、機械仕掛けで組み合わさることで1つの「巨大な雪の結晶」へと姿を変えるギミックが披露されました。「世界中の個性が寄り添い、ひとつになる」という連帯のメッセージを、視覚的かつ直感的に表現した名シーンです。
そして世界中を驚かせたのが、最終点火者(ノルディック複合のディニゲル・イラミュジャン選手とボブスレーの趙嘉文選手)による北京五輪開会式の聖火点火でした。巨大な聖火台が轟音とともに燃え上がるこれまでの慣例を覆し、2人が掲げたトーチそのものを巨大な雪の結晶の中心にそのまま固定。トーチの炎がそのまま「聖火」として静かに灯り続けるという、五輪史上例を見ない最小の点火方式が採用されたのです。
この前代未聞の演出に対し、チャン・イーモウ監督は舞台裏のインタビューで「巨大な炎を燃え上がらせるのではなく、小さな一筋の炎を残すことで、カーボンニュートラルや環境保護の思想、そして『一角の火種が未来を照らす(星火燎原)』という哲学を伝えたかった」と明かしています。巨大さを競い合ってきた五輪の歴史に一石を投じる、極めてコンセプチュアルな試みでした。