天才たちの波乱に満ちた生涯は、映画界にとっても抗いがたい魅力を持つ題材だ。アカデミー賞を受賞した名作『ビューティフル・マインド』では、ゲーム理論の先駆者であるジョン・ナッシュの苦闘が描かれた。映画は彼のノーベル経済学賞受賞に至る愛と再生の物語を劇的に仕立て上げたが、実際のナッシュの人生はさらに過酷で、統合失調症による幻覚と妄想、家族の崩壊、そして大学のキャンパスを徘徊する「幽霊」と呼ばれた長い暗黒期が存在した。
一方、映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』で脚光を浴びたアラン・チューリングの真実もまた、悲痛を極める。第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの暗号「エニグマ」を解読し、数百万人の命を救った近代コンピューターの父は、戦後、当時違法とされていた同性愛の罪で告発された。化学的去勢を選ばされた末の非業の死。映画が描き出した天才の輝きの下には、時代と国家の理不尽に押しつぶされた生々しい人間の痛みが刻まれている。