絵本の世界を舞台化する試みは数あれど、本作ほど原作のダイナミズムを空間全体へ拡張することに成功した例は珍しい。福音館書店の『こどものとも』誌上で発表されて以来、長谷川摂子が紡いだ躍動感あふれる言葉と、降矢ななが描いた力強くも滑稽な妖怪たちの造形は、読者の想像力を刺激し続けてきた。
劇場に一歩足を踏み入れると、そこには紙面から飛び出した立体的な大楠が聳え立ち、光と影の巧みな対比によって夜の神社が持つ神秘的な空気が再現されている。静寂を打ち破る音響効果と役者たちのダイナミックな身体表現が合わさることで、観客はまるで自分自身が「かんた」と一緒に木の穴へ落ちていくような錯覚を覚えるのだ。文字と絵だけで描かれていた空間が、音と光、そして演者の熱量によって立体的な小宇宙として完結している。