廃止・掲載終了となった記号の中で、歴史的に最も象徴的な事例が「桑畑(くわばたけ)」です。明治から大正、昭和初期にかけて、生糸は日本の総輸出額の大部分を占める最重要外貨獲得産業でした。蚕(かいこ)の餌となる桑の葉を栽培する桑畑は全国津々浦々に広がり、最盛期の1930年(昭和5年)には栽培面積が70万ヘクタール以上に達していました。そのため、当時の地形図において桑畑を独立した記号で識別することは国策上、極めて不可欠でした。
しかし、化学繊維の台頭や安価な輸入品の増加により、国内の養蚕農家は激減しました。栽培面積の縮小が続いた結果、国土地理院は桑畑の独立表示としての実用性が薄れたと判断し、2万5千分1地形図の図式改訂(1988年・昭和63年など)に伴って段階的に表示基準が見直され、やがて他の「畑」記号へ統合・整理されるに至りました。
ほかにも、製塩技術の近代化によって不要となった「塩田」や、通信網の高度化・自動化に伴って役割を終えた「電報・電話局」の記号など、時代の技術革新と産業の退場に伴って地図上から消えていった記号は少なくありません。地図記号の廃止一覧は、まさに日本の産業構造転換の歴史そのものを物語っています。