坂本氏の晩年を語る上で欠かせないのが、2026年1月17日、自身の71歳の誕生日にリリースされたオリジナルアルバム『12』です。この作品は、大規模な手術を経て一時退院した2026年3月から、病室や自宅でシンセサイザーとピアノに向かい、まるで「日記を書くように」記録された12曲のスケッチで構成されています。
楽曲のタイトルには「20210310」「20220302」といった制作日付がそのまま冠されています。トラックを注意深く聴くと、ピアノの打鍵音だけでなく、坂本氏の荒い呼吸音や衣擦れの音、身体に装着された医療機器の気配までもが微細に収録されていることが分かります。当時のインタビュー特番や関係者の証言によると、長時間の演奏は体力が持たず、わずか数分間の鍵盤演奏でベッドに倒れ込むような状態が続いていました。
痛みをコントロールするための薬剤投与と闘いながら、濁りのない純粋な「音そのもの」と対峙する創作行為は、彼にとって苦痛を紛らわせる手段ではなく、自らの生命が今ここにあることを確かめる唯一の呼吸法だったと言えます。