二人羽織の起源は古く、江戸時代後期の寄席や大道芸にまでさかのぼります。ひとつの羽織を二名で着用し、前の人が首を出して表情を作り、後ろの人が袖から両手を出して前の人に飲食などをさせる芸は、落語の余興や色物(いろもの)演芸として庶民の間で親しまれてきました。
一体なぜ、これほど単純な構造の芸が何百年にもわたって爆笑を生み続けているのでしょうか。その真相は、心理学でいう「期待と現実のギャップ」にあります。観客は「普通に食べさせたい前役」と「見えないまま強引に動かす後役」のちぐはぐな攻防を予測しながら見守り、口元を外して頬に食べ物が刺さる瞬間に、強烈なカタルシスと可笑しさを覚えます。
演じる側の人間関係やキャラクターがそのまま舞台上に透けて見える点も大きな魅力です。真面目な上司が顔中クリームだらけになったり、新入社員の遠慮のない手の動きに翻弄されたりと、普段の力関係が一瞬で逆転する痛快さが、あらゆる宴会や余興の出し物として愛され続ける理由です。