声優業界の黎明期から現在に至るまで、新劇俳優は洋画吹き替えやアニメーションの現場において決定的な役割を果たしてきました。新劇俳優が声優や吹き替えに多い理由には、日本の放送史と音響演出の進化が深く関係しています。
テレビ放送が始まった1950〜60年代、海外ドラマやハリウッド映画の日本語吹き替えを生放送や初期の録音で行う際、起用されたのが新劇の俳優たちでした。海外の俳優が演じる複雑な心理描写を、声だけで過不足なく再現するためには、スタニスラフスキー・システムで培った「感情の追体験」と、正確なリップシンク(口の動きに合わせる技術)が不可欠だったためです。
ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノといった名優の吹き替えを担当した野沢那智や羽佐間道夫、山田康雄をはじめ、多くが新劇の舞台を踏んだ役者たちでした。マイクの前で声を作るのではなく、「その人物としてその場で対話する」という新劇のリアリズム演技は、現在のハイクオリティなアニメーション作品や外画吹き替えにおいても、揺るぎない説得力を生み出す基盤となっています。