当時、日本の製薬業界は大きな構造変化の波に晒されていた。特にOTC医薬品分野では、競合他社との熾烈な価格競争と製品の多角化が進み、同社も例外なく深刻な経営難に喘いでいたのだ。
そこで藤井社長が下した決断は、不採算事業や過度な事業拡大を廃し、看板商品である「龍角散」の原点回帰と「服薬補助ゼリー」などの特化型商品へ資源を集中させることだった。オーケストラにおいて各パートが自身の役割を全うし、全体の旋律を調和させるように、会社全体の無駄を徹底的に削ぎ落とした。
この大胆な構造改革により、同社は劇的なV字回復を果たす。楽譜を緻密に読み解き、細部まで妥協なく音程を合わせるクラシック音楽特有の思考回路が、冷徹な経営判断と鋭いマーケティング戦略に結実した瞬間だった。