「結婚なんてものはね、若いうちに分別がないうちに勢いでしちゃわないとダメなのよ」——生前、メディアの取材に対してニヤリと笑いながらそう語っていた姿を覚えている人も多いだろう。世間が思い描く「理想の夫婦像」や「甘い新婚生活」という幻想を、彼女は軽やかなユーモアと共に一瞬で解体してみせた。
樹木希林が提示した夫婦論の核心は、「相手に期待しすぎない」という徹底した自己自立と諦観にある。相手を変えようと執着するから苦しくなる。人間は誰しも欠陥を抱えた不完全な存在であり、その歪みごと引き受ける覚悟があって初めて「夫婦」という不思議な関係が成立するのだと、彼女の言葉は告げている。妥協や諦めをネガティブなものではなく、他者を受け入れるための最大の誠実さとして捉え直す視点こそ、現代の私たちが彼女の言葉に救われる最大の理由だろう。